:就活エリートの迷走

 近所の本屋で「久しぶりにおすすめできる1冊です」と店員さんのコメントが書かれていたので買ってみました。就活に関する本を読んだのはこれが初めてだったので、参考になる・興味深い情報もありました。しかし著者の意見には同調できないというのが率直な感想です。

 この本は就活エリートという人たちに焦点を当てて書かれた本です。就活エリートとは 1.コミュニケーション能力が高く、2.エントリーシートを綿密につくりこみ、3.面接対策に余念がなく、4.内定を複数もらい、5.やりたいことが明確にある人たちだと、著者は定義しています。
 ざっくりと内容を説明してしまうと、『目的意識を持って入社してくるが、入社後の現実を受け入れられないゴール志向の学生が悪い→ゴール志向の学生を作り出している企業のエントリーシート・説明会が悪い→そのような制度・風潮を作り出した就活という制度が悪い』という感じです。

 なぜ自分が著者の意見に同調できないのか。それは著者の主張に客観性・具体性に欠けているからです。
 たとえば著者は『明確な根拠はないが就活エリートは就活生全体の15%くらいだろう』と言っていますが、これを裏付けるようなデータは本書には記載されていません。
 また『就活エリートは就活負け組にならないためにサークルを立ち上げたり積極的にNPOに参加している』と書かれていますが、自分はそのような大学生を見たことも、聞いたこともありません。「実際にどのくらいの学生が就活のためにサークルを立ち上げたりNPOに参加しているのか」という数字も記載されていません。しかしそのような活動をすることが当然であるかのように書かれています。

 著者は抽象化しているつもりなのかもしれませんが、実際は具体的な数字が無いから説得力が無いだけになってしまっています。単に載せることが出来る数字が存在していないだけかもしれませんが。

 さらに決定的だったのは、近年増えてきている勉強会に対して『私には、その多くが現実からの逃避行為であるように思えて仕方がない』という著者の意見です。これに関しては一切の根拠がなく、著者がそう思っているからそう見えているだけなのではないでしょうか。

 もちろん参考になる意見や頷かされる主張もたくさんあります。しかし期待が期待していた内容とは違ったので、ちょっと残念な1冊でした。

就活エリートの迷走 (ちくま新書)

就活エリートの迷走 (ちくま新書)